「紙の木刀」開発、剣士たちの挑戦 ~お蔵入り企画編~

皆さん、元気に剣道してますか-!

って、紙屋のサイトとは思えない始まりですが……。
弊社には剣道部員が多く在籍し、仕事に励むことは勿論のこと、日々剣の道で精進していることはこれまでの記事にご紹介した通りです。

さて、そんな私たちシオザワ剣士は、剣道に関わるビジネスも展開しているわけですが(例えば「剣道ノート」の販売など)、中には、何度も企画会議を重ね、試作を作ったにもかかわらず、残念ながら諸事情によりお蔵入りとなってしまった企画もあります。
今日は、そんな日の目を見なかった企画の1つ「紙の木刀」にスポットを当て、「成仏してくれよ」との思い込めて(笑)皆様にご紹介したいと思います。”紙と剣”にこだわった男達の軌跡です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

 

■剣道界の「あったらいいな」をカタチにする

このフレーズは、弊社の剣道マーケット開発チームの基本コンセプトで、私たちが剣道界に何か新しいモノやコトを投入したいと感じ、取り組む原動力にもなっています。剣道マーケットにはソフト・ハード両面でまだ多くの潜在的ニーズがあるという観点から、今日まだ存在しないアイテムやサービスを企画、実行することで剣道界に微力ながら貢献してゆきたいという私たちの想いが込められています。
以前ご紹介しました「和綴じ剣道ノート」は、剣道・和紙・和綴じという日本の素晴らしい伝統文化の融合体を、より多くの方々にお届けしたいという想いからスタートし、商品化することができました。
しかし様々な事情や状況を考慮して、泣く泣くお蔵入りとなってしまった企画も存在します。今回ご紹介するお蔵入り企画は「紙で作った木刀」です。ではなぜ木刀を紙で作ってみようという話になったのでしょうか…。

■木刀を紙で作る理由とは

剣道を修行する過程で必ず習得しなければならないものの1つに日本剣道形(以下「形」という)が存在します。形とは、剣道における礼法、目付、構え、姿勢、呼吸、太刀筋、間合、気位、足さばき、残心等の習得のために稽古するもので、子供から大人まで年齢を問わず必ず行います。通常の剣道の稽古は竹刀を使用し、防具を着用した相手に直接打突を加えますが、形の稽古は主に木刀を使用し、防具は着用せず直接打突しないよう寸止めします。このため形の稽古の際に木刀操作を誤ってしまうと、木刀で直接相手を打突してしまうことが起き、事故につながる可能性があります。ある程度筋力や技術の発達した中学生以上が行う場合は、ほとんど事故は起こりませんが、まだ体も技術も未熟な子供が木刀を使用して形の稽古を行う場合、事故発生のリスクが高くなります。それに加え、中学校での武道必修化に伴い剣道未経験者が剣道に触れる場面が増え、学校の授業における安全性を意識する必要があるのです。そんな状況に、この紙製の木刀だったら貢献できるのではないかと私たちは考えたのです。

日本剣道形の様子(撮影協力:埼玉県立ふじみ野高等学校剣道部 山中選手・森部選手)

 

■試作品の作成と改良を繰り返して

紙製木刀の企画をスタートすることが決定し、まずは共にタッグを組む紙器製作会社を選定することから始めました。幸い弊社は紙を主軸とした企業ですので、多くの紙器関連の協力会社とお付き合いがあります。今回の案件に1番適した協力会社に構想を説明し、まずはサンプル作成からスタートすることになりました。
1つ作っては、それを踏まえてまた次に…という具合に、順を追って5本(5種類)のサンプルを製作しました。画像をご覧ください。1番上が本物の木刀、あとの5本は作成したサンプルを、上から作成順に並べたものです。(下の5本は全て紙製なんです! 紙とは思えないでしょ?!)

 

 

試作品1本目は、
実際の木刀に全長と握りの長さを合わせ、剣先を加工するだけの簡易的な物になりました。素材は段ボールに使われる原紙を採用し、単純に原紙を内側に織り込んで包み、接着剤で固定するという製法です。実際に振ってみると原紙自体の強度が弱く、根本がヘタって折れてしまいました。

試作品2本目は、
原紙の空洞部分を減らし、木に似た柄の物を使用。更に握りの部分の長さが明確に判別出来るよう、紙1枚分だけ握り部分が薄くなる設計としました。刀状にする形成方法も「包む」から「巻く」に変更しました。試作品ということで1枚の大きな紙から型抜きするのではなく、CADデータからレーザーカッターを使用し、刀の形の展開判を作る方法をとりました。この時点では下の写真のような状態になります。(表裏それぞれの状態です。)

2枚目の写真をご覧ください。折りが発生する箇所に筋押し加工を施し(わかりづらいかもしれませんが)、巻き込む際に隙間が空かないよう密度を高める工夫を加えました。しかしまだ強度が弱く、1本目の試作品同様、根本が折れてしまう結果となりました。

試作品3本目は、
原紙を段ボール原紙からパッケージで使用されるような厚紙に変更し、柄もより本物の木刀に近い物を使用しました。この変更により紙が薄くなり、巻き込む回数が上がったことによって格段に強度が上がりました。この時点で近しい剣友や少年剣道の先生方に試作品をお配りし、実際に使用していただいた所感をアンケート調査しました。その結果「あともう一歩強度を上げたい」という声が多く、その後4本目の試作品に取り掛かりました。

試作品4本目は、
紙を巻き込む中心に芯材を取り入れました。これによって強度の不安は取り除かれましたが本物の木刀よりも大幅に重くなり、握り部分も太くなり過ぎてしまいました。

そして試作品5本目、
4本目の経験を踏まえ、重さと太さを調整し、遂に納得のいく物が仕上がったのです。

 

こちらの写真は左から本物の木刀、試作品1本目…という順で並べてあります。使用した原紙や仕上げ方法の推移が見て取れます。試作品の作成だけでも多くの時間と労力が注がれたことを実感する1枚です。

■本生産を迎え、そびえ立った壁

5本(5種類)の試作を経て、いよいよ本生産に向けての打ち合わせが始まりました。大量生産に向けての方法、製作の予算などを打ち合わせるのですが、ここで大きな壁にぶち当たるのです。それは生産に機械化が取り入れられないという事でした。強度を保つために芯材を取り入れ、尚且つ隙間なく原紙を巻き付けるにはどうしても人の手作業でなければならなかったのです。ところが、これでは安定した生産を維持できませんし、更に、人の手作業となると、やはり人件費がかさみ、量を生産することのスケールメリットが出せません。結果、その分原価は上がってしまい、市場に対する適正な相場価格の設定が困難となってしまいました。残念ながら、この段階で商品化に向けてのアクションは一旦見直さざるを得なくなったのです。

■挫折から得たものと今後に向けて

今回「紙で作った木刀」は一旦見直さざるを得なくなりましたが、全てが無駄に終わったという訳ではありません。新商品の開発過程で得たモノ作りのノウハウや、アンケート調査でご協力いただいた剣道人の声の数々は、カタチには表せない財産となりました。
今後も継続して剣道界に貢献できるようなアイテムやサービスを探求し、少しずつでも皆様の元へお届けできるよう取り組んで参ります。
シオザワの剣道マーケット開発チームにお力添えいただければ幸いです。
これからの展開にどうぞご期待ください!