2017年下半期芥川賞受賞作品『おらおらでひとりいぐも』と『百年泥』の用紙

 

書籍用紙のトレンドを探る『知ってる? あの本の紙』シリーズ。今回はその第4弾。
本の内容に関する感想やネタバレは全くありませんので、ご安心ください。

2018年1月16日 第158回芥川賞と直木賞の発表が行われました。
(かなり前のトピックスを今頃になって記事にして、すみません!)
直木賞受賞された門井慶喜さん、芥川賞受賞された若竹千佐子さん、石井遊佳さん、おめでとうございます!
直木賞作品については前回記事にしましたので、今回は芥川賞の2作品を紹介します。

ちなみに芥川賞は、財団法人日本文学振興会が運営する文学賞で、正式には芥川龍之介賞。年2回選考会が行われ、下半期はその年の6月から11月までに雑誌や同人誌などで発表された作品で、新人作家による純文学(芸術的な)短編、中編作品が対象となります。
ポイントは、直木賞とは違って、書籍になっていなくても対象になるってことですね。
それなので受賞してから書籍化というパターンも多いようです。

それでは、さっそく本を手にとってみていきましょう。

   

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若竹千佐子著『おらおらでひとりいぐも』
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  • カバー:  裏面上質のキャストコートにPP加工
  • 帯:     裏面上質のキャストコートにPP加工
  • 表紙 :    色上質 白
  • 見返し: 色上質 白
  • 扉:     色上質 白

 
カバーや帯については表面にPP加工がされてしまうと、ベースの用紙に何を使用しているか、ほぼわからなくなるのですが……、そこは紙屋さんの腕の見せどころ。
まずは紙の厚さ。PP分の厚みを差し引いて原紙の厚みを計測します。
続いて、裏面の風合いと色味から用紙を特定していきます。

本書のカバーと帯は裏面のぼさぼさ感が上質ベースの片面キャストに似ていたので、裏面上質のキャストコートにPP加工を行ったものと思われます。

そして、表紙、見返し、扉にはツルツルで青白い用紙が使われています。
白色度の高いケント紙かな?と思いきや、色上質紙の販売会社より「芥川賞作品に色上質が使われたんですよ」との話があり、詳しく聞いてみると『おらおらでひとりいぐも』に色上質紙の白が使用されたとのこと。

普段、色上質紙というと、チラシやメモ帳など手軽に使用できる紙というイメージが強いので、「えっ?! 芥川賞受賞作品に使用されたの!」と、長いこと紙屋をしていますが、なかなか驚きのニュースでした。

  

色上質紙の白はとてもきれいな白さで、白の中の白と言える色味と思っています。
得意先から「とにかく白い紙ないか?」と問い合わせがあった時、まず、色上質の白を見てもらい、これを基準に、もう少し青白いとか、赤味のあるものとか、調整して紙を選んでもらったりしています。

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石井遊佳著『百年泥』
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  • カバー: 片面パール印刷紙
  • 帯:  片面アート紙
  • 表紙:  エコジャパンR びゃくぐん
  • 見返し: エコジャパンR しらちゃ
  • 扉:  エコジャパンR きぬ


表紙、見返し、扉には比較的よく見るエンボス紙が使用されています。
エンボスの雰囲気から、おそらく「タント」と思いきや、色味が違う……。
似たようなエンボス紙はPAPYRU+品の「サイタン」と、王子エフテックス品の「エコジャパンR」の2種類がありますが、色の特徴からして、本書で使用されているのは後者のエコジャパンRと判断しました。

 

 

「タント」は色数が多く、180kgの厚手の用紙も発売され、用途も幅広くなりました。
「サイタン」はコストパフォーマンスの良いエンボス紙なので「高価に見せたいが予算がない」といったときにお勧めです。

今回は紙屋さんのテクニックを少し披露させていただきました。
ではまた次回もお楽しみに~