2017直木賞・本屋大賞W受賞『蜂蜜と遠雷』 "装丁のこだわり"徹底解剖! その②

 

前回に引き続いての第2回。
今回が本題です!

では早速……

 

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  装丁のこだわり

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①カバー

 

まずはカバーから解説します。
用紙は「OKミューズガリバーエクストラ ホワイトS」

マット系の用紙には珍しくエンボス加工が施されていて独特の手触り感があります。
萌え立つような草原(?)のデザインが鮮やかですね。

『蜂蜜と遠雷』ではこのカバーにもニクイ”演出”があるのです。
表紙をめくってみてください。
すると、

 

カバーの前袖に何やら文字が並んでいます。
よく見ると『推薦状 皆さんに、………』と推薦文が記載されています。
実は、ここからもう物語がスタートしているのです。

新書やハウツー本などではこのカバーの前袖をうまく使って、本の内容を簡潔に示したりすることが多いのですが、小説の単行本で前袖を使っているのを見かけるのは稀です。しかも『蜂蜜と遠雷』においては、梗概(粗筋)の表示のためにそのスペースを使っているのではなく、小説の導入部として使っているのです。

「ん~、そう来たか!」って感じですよね。

これからお読みになる方、ココ、飛ばさないでくださいね~。

 


②帯

 

次に帯を解説いたします。
ここにも『蜂蜜と遠雷』ならではのこだわりが見て取れます。

用紙は「MTA+FS」
そして、なんと表面にパール加工を施しているのです!
よーく見てください。しっとりと落ち着いた品のある光沢感。
印刷でパール加工処理をしているようです。

しかも、
しかもですよ、
その上に、『蜂蜜と遠雷』のタイトルが金の箔押し処理されているのです!

「パール加工に箔押しぃ、いや~、どんだけ帯に金掛けてんじゃ?!」

更にもう一つ、
特徴的なのが、カバーと帯の関係性です。

通常ですと、カバーの下3分の1程度の大きさで帯が付けられるのですが、この『蜂蜜と遠雷』にあっては、ナント半分。小説の単行本でここまで大きい帯を付けるのは、あまりないですよね。

驚きついでにもう一つ言うと、
作品名『蜂蜜と遠雷』と著者名『恩田陸』とのデザイン上の位置の関係がこれまた珍しい。
通常ほとんどの作品が「上部に作品名、下部に著者名」となっているのに対して、『蜂蜜と遠雷』はその逆。(画像をご参照ください)
ですから、帯の背に作品名が入っているという、あまり見かけないパターンになっているのです。小説の単行本でこのパターンは、ちょっとありそうでないですよね~。

もう、カバーと帯だけで、その”凝っている感”が出ています。

 


③表紙・見返し


さて、表紙です。

コート紙に黒ベタ印刷をして、表面に光沢のあるグロスPP加工を施しています。
そして、表紙をめくると、

 

見返しには光沢のある白紙「ルミナホワイト(キャストコート)」。

てかてかの黒に、つるんと光る白。
そしてこの小説の題材はピアノコンクール。

もう、おわかりですよね。
そうです、これはどう見てもピアノを連想させる表紙と見返し!

見返しに「ルミナホワイト(キャストコート)」を使うことはまだしも、ピアノブラックを表現するがために、表紙に一度黒ベタ印刷をかけた上に光沢PP貼りをするなんて……。

またも「どんだけ金掛けてんじゃ?!」と言いたくなります。

小説の単行本の場合はカバーがありますので、わざわざカバーで隠れてしまう”表紙”にPP加工を施す必要はなく、事実、そんなことをやっている単行本はめったにありません。
カバーをあえてはずしてみなければ人の目に触れることのないのが単行本の表紙です。その「見てもらえる可能性が低い」という宿命を背負った表紙に、あえてピアノブラックを表現するためだけにお金を掛けてまでPP加工を施した……。

「いや~、こだわってるね~」

 


④扉


そして扉です。
用紙は「TSギフト‐1 ウォームグレー」

タントシリーズの紙で、カバーと同様に片面がエンボス仕上げになっています。

そして、更に”こだわり”は続くのです。

 


⑤花布(ヘッドバンド)


ココを見てください。

普段あまり意識することはないかもしれませんが、花布(はなぎれ)は、補強材でありながら、同時に装飾と背部を隠すという役割もこなしていて、上製本には欠かせないアイテムのひとつなのです。

この『蜂蜜と遠雷』の花布。
もう何だかわりますよねぇ?
「白と黒のストライプ」と言えば……、
そうです、鍵盤!

いや~、こんなところにもピアノを意識して装飾がされているんですね~。

栞も勿論ピアノをイメージして黒。

もう、ここまでくると「参りました!」って感じです。

『蜂蜜と遠雷』は、小説として大賞を受賞したわけですが、
ストーリーのみならず、”単行本”というアーティスティックな作品としてみても、間違いなく大賞をあげていいと思います。

この「作品としての単行本」の素晴らしさ、その機微は、デジタル書籍では表現できない領域のものですね。
いや~、やっぱり本って素晴らしい!


『蜂蜜と遠雷』
小説家が渾身の作品を紡ぎ出し、
編集者が文章を鍛え上げ、
デザイナーがイメージの華をそえ、
装丁家が本にお化粧をし、
そして、プロデュサー(出版社)が世に送り出した、
宝物のような1冊。

プロフェッショナルな粋が結集し、
これだけ内容が詰まっていて、
なんと価格は1800円。

まあ、価格はさておき(笑)、
『蜂蜜と遠雷』
これぞ単行本。
是非、お手許に1冊!