なるほど!ザ・印刷 ~初級編~

本やチラシの印刷現場。皆様はご覧になったことがありますか?
普段何気なく手に取る紙媒体、その文字や絵がどのように印刷されているのか、「気になったこと、ある!」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんなあなたに、今回は、印刷の仕組みについてご紹介したいと思います。「へぇ、こんな仕組みになっているのか!」と皆様にとってのご興味につながれば幸いです。
かく言う私も、紙屋に入社したことでお取引先である印刷会社さんにお伺いして実際に現場見学をする機会があり、その体験を通して「こういう仕組みになっていたんだ!」と初めて理解したんですが……(笑)

 

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印刷方式のアレコレ

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まずは、基本となる”印刷の仕組み”をイメージしてみましょう。
皆さん、小学生の頃の図工の時間を思い出してください。彫刻刀を使って木板を彫り、ローラーでインクをつけて紙に転写する。こんな作業をやったことありませんか?
そうです、版画です! この、版にインクを付け紙に転写する仕組みが印刷の基本原理なのです。
そして印刷の方式は4つ、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、孔版印刷があります。
さらに5つ目、先述の仕組みとは違って、”版を使用しない”デジタル印刷と呼ばれる方式もあります。
では、早速ご説明いたします。

 

凸版印刷
凸版印刷

【凸版印刷】
先ほどの版画でいう版の部分、この版のインキが付くところ(以下”画線部”という)が凸状、非画線部が凹状になっていて、印刷時凸部にインキが付着し、紙などに印刷する方式です。
この方式で有名なのが、活版印刷。一番歴史のある印刷方式ですね。活版印刷と言えば、『大人の科学マガジン 2017年12月号』に名刺サイズの紙が刷れるミニ活版印刷機が収められていて、一時期ちょっと話題になりましたよね! …可愛いな…欲しいな…

 

凹版印刷
凹版印刷

【凹版印刷】

先ほどの凸版とは逆に画線部が凹状になっています。版全面にインキを付け、非画線部に付いた余分なインキを掻き取り、凹部にたまったインキを転写する方式です。
この方式で有名なのがグラビア印刷。「んっ?グラビア??」と思ったあなた! 安心してください、その想像で合っています。 というのも、書店で売られている雑誌のグラビア写真、あの「グラビア」という言葉はこの印刷方式から来ているのです。
昔は、雑誌の写真ページをグラビア印刷で刷っており、そのページに載る綺麗なお姉さんをいつしか”グラビアアイドル”と呼ぶようになりました。
現在ではコストがより低く仕上がりも良好な「オフセット印刷」と呼ばれる印刷方法で刷っていることがほとんどで、その点からすると、厳密に言えば今は「グラビアアイドル」ではなくて「オフセットアイドル」ってことになりますかね……なんのこっちゃ?!

 

孔版印刷
孔版印刷

【孔版印刷】
この印刷方式は少し変わっていて、布の網目を利用して版の穴からインキを通して転写する印刷方式です。
有名なのがシルクスクリーン印刷。Tシャツに印刷する代表的な方法です。皆さん懐かしのお揃いクラスTシャツに使われていたのもおそらくこの方法ではないかと思います。DIYが流行っている今日この頃、100均で道具を揃え自分で印刷することも出来るんですよ!(と、ネットでそんな記事を見たことがあります)

 

平版印刷
平版印刷

【平版印刷】
この印刷がカタログ、雑誌、チラシや官公庁の冊子など、商業印刷と呼ばれる印刷物を刷る方式の主流となっています。上2つとは違い、表面が平らな版を用います。水と油の反発現象を利用し、画線部と非画線部が平面上にある印刷方式です。
先ほど凹版印刷の項で触れた「オフセット印刷」。これがこの平版印刷の代表的な印刷方法なのです。また、皆さんがよく目にする印刷物に一番多く用いられている印刷方法でもあります。
そんなメジャーなオフセット印刷。「表面が平らなのにどうして印刷出来るの?」という素朴な疑問が沸きますよねぇ…。それは、後ほどご説明したいと思います。(え?あまり思わない?私はこのメカニズムを知った当初、「水と油が反発するって言ったってそんな綺麗に印刷出来るものなの?」と不思議でなりませんでした…)

 

【デジタル印刷】
一番新しい印刷方式です。他の印刷方法と違い、印刷したいデータを印刷機に送信することで印刷ができます。製版を必要としない、デジタルデータを用います。デジタル印刷で主に使われているのは2つ、レーザー方式(トナー方式)とインクジェット方式です。皆さんのご家庭で良く使われているのが後者ですね。
インクジェットプリンターというのを良く耳にしますよね。インクジェットプリンターは名前の通り、インクを紙に直接吹き付けて転写します。家のプリンターで印刷する際、左右にウィーンウィーン、シュッシュッと音がしませんか? あれは紙の端からインクのノズルが動きながら紙に吹き付けている音なのです!
ちなみにレーザー方式のレーザープリンターは、ドラムと呼ばれる筒にレーザーでイメージを描き、そこにインクを付着させた後、紙に転写、熱を加えて印刷完了!という格好になっています。
  

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オフセット印刷とは?

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先ほど書きましたが、雑誌、書籍、カタログ、ポスター、チラシなどの印刷物は、4つの色を使用したオフセット印刷方式による印刷が主流です。
印刷物は「一度のインキの転写」であの仕上がりになるのではなく、3原色のシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)が基本で、そこにブラック(K)を加えた計4つの色を重ねていくことで仕上げていきます。また色は濃い色から淡い色へ、K→C→M→Yの順で重ねられていきます。


その他にも、緑と橙、黒と橙、青と赤の2色を使い印刷することもあり、新聞の折り込みチラシなどによく使用されています。

 

この印刷方法で特徴的なのが「網点」です。網点とは紙にインキが付く部分のことで、この網点の大小で濃淡の表現ができ、密度で解像度が変わります。24時間テレビとかで見かける「100枚の写真でつくる一枚の絵」みたいな感覚でしょうか? 写真ならぬ点がたくさん集まって一つの印刷物になります。

 

この網点は、先述の通り水と油の反発現象を利用して紙に転写されます。また、ここでの油とは、インキのことです。オフセット印刷で使われるインキの成分は最大60%が油分で作られており、このように版面が親水層(水が付くところ)と親油層(インクが付くところ)に分かれています。この時使われる水は「湿し水」と呼ばれます。
図の様に、湿し水を版に付着させその後インキを乗せることで、画線部と非画線部が出来ます。そして版に乗ったインキをブランケットに転写させ、さらにそれを紙に転写させます。版から一度ブランケットにインキを「オフ」し、紙に「セット」するこの工程が、オフセット印刷と名付けられた由来でもあります。

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「オフセット印刷」にも色々とあるんです

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水なし印刷
水なし印刷

ここまで「オフセット印刷の仕組みは水と油の反発現象を…」とご説明をしてきたわけですが……、
なんと、それだけではないのです!
このオフセット印刷、実は反発現象を利用しない印刷方法があるんです。


水なし印刷。

40年ほど前に開発され2000年に製品化されてから、近年徐々にメジャーになりつつあります。水なし印刷とは名前の通り「湿し水」を使わない印刷方法で、代わりにシリコンを用います。
この緑のシリコン層がインキをはじき、水あり印刷と同じ転写方法で印刷出来るのです。この水なし印刷、実は画期的な印刷方法なのです。


まずひとつ目のメリットは、水を使わないこと! 水あり印刷時に使う湿し水は純粋な水ではなく、より効果を高めるための液剤が含まれています。そのため使用後の排水はその辺に捨てることが出来ず、特別管理産業廃棄物として回収しなければなりません。その回収には実は相当なコストも時間もかかっているのです。水なし印刷になれば、その煩わしさがないのです! これはグッドポイントですよね。

また、紙は吸水性があることはご存じかと思いますが、印刷時の湿し水によって紙が水を吸い、印刷工程で一時的に紙が伸びてしまいます。(紙質によって紙伸びにはバラつきがあります) 紙伸びが起きると印刷の仕上がりにズレが生じたりしますので、次の工程に移る前に紙を乾かす必要があり、これに結構な時間がかかります。水なし印刷ではインキが乾燥したあとすぐ、次の工程に移れますので、時間的コストが削減されます。

 

また、水なし印刷は、インキが水ににじむといったことが起こらないため、点のひとつひとつがくっきりと再現され、高精細な美しい仕上がりの印刷物が得られるという特長もあります。

 


その他にもオフセット印刷には、「UV印刷」なるものもあります。これは、瞬間硬化する専用インキ(UVインキ)を使用することで、従来のオフセット印刷で発生していた”印刷後の乾燥待ち時間”をカットしようというものです。
従来のオフセット印刷(水あり)ですと、転写後は、自然乾燥または熱風による乾燥工程に入りますが、UV印刷の場合は、この乾燥工程で紫外線を使って即時にインクを固めてしまうのです! 日焼け止めクリームの「UVカット」のあれと同じUVですね。


さて、長々とご説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
印刷の仕組みについて、少しでもなーるほど!と感じて頂けたなら幸いです。

私たち紙屋は、これら印刷の仕組みを理解した上で、それぞれの印刷会社さんが所有している印刷機と紙の相性を考えながら紙のご提案をしています。

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