世の中には数多くの紙が存在しますが、なかなかお客様のご希望にピッタリな紙が見つからないこともしばしば…。しかし諦めることなかれ! 実はお客様のご要望通りにオリジナル用紙を抄造することが出来るんです。ご存知でしたか?
この度、弊社のお客様がオリジナル用紙をご発注になり、その抄造の立ち合いで静岡県の製紙工場まで行って参りました。今日はその時の様子をレポートします!(昨年11月に行ってきました。ご報告が遅くなってしまいました。。。。)
◆東京駅から静岡県富士市へ出発
当日は朝の新幹線で新富士駅へ向かいました。博多行きの「のぞみ」を目にし、そのまま飛び乗ってしまいたくなる衝動をグッとおさえ、名古屋行きの「こだま」に乗り込みます。
富士地区周辺は富士山の湧水に恵まれ、各メーカーの製紙工場が数多く設立されています。
余談ですが、製紙工程において最も重要なのが水です。よって製紙工場は(富士地区以外でも)必ず安定して取水可能な地域に設立されています。
さて、新幹線の窓から外の風景を眺めていると、モクモクと白い煙を吐き出す煙突が何本も見えてきました。日本有数の製紙所、富士に到着です。
◆1日の流れについてランチミーティング
新幹線を降りると晴れ渡る富士の青空。わざわざ遠方からお越しいただくお客様の足元を考えると、当日の天気は重要なファクターです。今日は立ち合い日和だな…と心の中でニヤリとしてしまうのは営業経験のある方には共感していただけますよね?(笑)。
改札を出て現地工場の担当者の方と合流し、その場で挨拶を済ませます。挨拶を済ませた後はランチミーティングタイムです。当日の流れの打ち合わせから業界全体の話、それぞれの業種の話など実に多様な情報交換の場となります。このような場でのお話の内容が後々仕事のヒントになることも多く、本当に貴重な機会になります。いつなんどきでも情報収集は欠かせないのです。
そんな実り多いランチミーティングでしたが1つ惜しまれることが…。この日の朝は駿河湾のしらすが捕れなかった為、お客様に名産の生しらすを堪能していただくことができませんでした…。当地の生しらすは有名で、生しらす目当ての方が多く店にいらっしゃるので、漁が行われない日は「本日は生しらす漁は出漁しません」という専用の看板を店頭に用意するのだとか……。話によると今年はとにかくしらすが不漁で、現在冷凍されている物が無くなると世の中に出回らなくなるということです…。しらすがお好きな方はお気を付けください。
◆工場到着、抄造の立ち合い
昼食を済ませ工場へ到着するとお出迎えの看板を発見。
会議室で最終打ち合わせを済ませた頃には抄紙機の稼働は始まっており、現在の進捗状況などの報告を受けます。工場内は兎にも角にも「安全第一」ということで、ヘルメットを装着し脚絆を巻いて、いざ抄紙機の視察へ向かいます。
ところで、工場敷地内に所狭しと積みあがったこの白い物体(画像参照)。一体何だと思いますか?
これが紙の材料「パルプ」です。以前「紙の流れ目」の記事でもご紹介しましたが、パルプとは木から繊維を抽出し白く漂白したもので、工場内に多く保管されています。
工場の規模によって植林を行い自前で木を育てて繊維を抽出してパルプを製造する場合と、製品パルプを海外から輸入したり国内メーカーから購入して調達する場合があります。今回伺った工場は製品パルプを購入して調達しているそうです。
こちらの写真のパルプには色が付いています。これは「古紙パルプ」と呼ばれ、回収された古紙から抽出されたパルプです。古紙パルプは古紙を漂白して繊維を抽出しますが、色紙の場合は真っ白になるまで漂白するのは困難です。結果このように色が残ったパルプとして仕上がりますが、色付きの古紙パルプは同系色の紙を抄造する際に使用されます。これによって同系色の紙を抄造する際に紙を染色する薬品の節約になるのです。古紙も染料もムダにしないという工夫が垣間見えますね!
さて、いよいよ建屋内へ進み抄紙機の視察となります。(――なのですが、ゴメンナサイ!建屋内の機械は撮影が禁止されており、写真をお見せする事ができません!)
抄紙機の視察では、紙の厚さや色の調整工程から異物検知の仕組みなど、抄造に対する全体的な管理体制を実感できます。
「紙を抄くって、これだけの大きな機械を動かし、これだけの多くの人の手によって成り立っているんですね…」
お客様の一言がとても印象的でした。製造工程を目の当たりにされ、日頃完成品を使用する中では感じることのない“自社専用のオリジナル用紙に対する思い”が、これを機により強いものになったのではないでしょうか。
抄紙工程の視察後は会議室に戻り、出来たてホヤホヤの紙がA4判にカットされて運ばれて来ました。ここで今回抄造した紙の色、厚さ、風合い、地合いなどをチェックします。お客様が2枚の紙を見比べていますが、これは今まさに抄いていた用紙と昨年抄いた用紙を並べて比較している様子です。プロの厳しいチェックをパスしO.K.を頂けると、翌日の朝まで機械をフル稼働させることになります。ちなみに今回のオリジナル用紙は30トン近い量を抄造しました…ちなみに30トンは鉄道車両2両分の重さです。紙だけでその量なんて凄いですね!
◆既製品で妥協できない理由とは…
今回オリジナル用紙を抄造されたお客様は、学校アルバムのメーカー様です。学校アルバムの製造は印刷、折り、糊付け、乾燥…と様々な作業工程を経るため、紙にとっては試練の連続なのです。既製の用紙では、全ての加工作業に耐え、尚且つお客様の品質基準を満たす用紙が存在しないということで専用のオリジナル用紙を抄造することになりました。
学校アルバムとは、手にする方にとっての一生モノの宝物になります。その宝物を作ることに対する想いと責任が一切の妥協を許さないのです。1番良い物を作る為に最適な用紙を使用する。既製品で存在しないのであれば専用紙を特抄で用意する。素材の選定から強いこだわりと想いをもって製作されるのが学校アルバムです。ぜひこの機会にお手元の学校アルバムをぜひもう1度開いてみてください。そこには、紙を抄いた工場と、その紙を使用してアルバムを製造したメーカー様の「プロの仕事」が詰まっています。
◆オリジナル用紙の抄造について
この記事を読まれて「オリジナル用紙…作ってみたい!」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか? 今回は30tというヘビー級の数字が出てきましたが、全てこのような製造ロットということではありません。中には数100キロ程度から抄造可能な商品もございます。
オリジナル用紙は使用される用途も様々です。今回は学校アルバムの製造に最適な「機能」を詰め込んだ用紙でしたが、中には「ストーリー」を詰め込んだ用紙も存在します。
面白い事例として、小学校の卒業証書用紙をオリジナルで抄造した例をご紹介します。なんと卒業証書用紙を「校庭に生えた桜の木」と「児童が着用していた体操着」を材料に抄造したのです。世界にただ1つの卒業証書になり、より一層思い出深い物になったはずです。
紙は繊維を絡ませてシート状にした物ですので、体操着のようにパルプ以外でも繊維質の物であれば紙の材料として使用できます。他にもジーンズ、さとうきび、さらにはテニスボールなど、思いもよらぬ物からオリジナル用紙が抄造できます。
オリジナル用紙にご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問合せください。世界でただ1つの紙づくり、シオザワがお手伝いいたします!