紙屋さんの秘密道具たち「紙の厚さ」編

”紙”というと、小さいころから馴染みがあって、「生活のいたるところに在る」イメージですが、”紙屋”というと、「…あれ?知らない。見たことない!」という方がほとんどではないでしょうか?

■「紙屋さん」ってどんな仕事をしてるの?

紙屋に入社して早3年ちょっと。(”新人”をちょっぴり抜けた感じ??)
その間に「紙屋の仕事ってこんなことをするんだ!」という驚きがたくさんありました。かなりニッチなお話ですが、面白がって聞いていただけたら幸いです!
「紙屋さん」と言ってもいろいろなお仕事がありますが、今回は弊社シオザワのお仕事の中の一部をご紹介します。


シオザワの「紙屋さん」のお仕事は、ものすごくシンプルにまとめると、
 ①印刷屋さんや紙を使うお客様からご注文をいただく
 ②紙を仕入れてお届けする
この2つ。
特に、①の「ご注文をいただく」という過程がポイントで、ここで「紙屋」の知識が発揮されます。
ご注文をいただく前に、「こんな紙ってある?」、「銘柄はわからないけど、これと同じ紙がほしい」、「この紙みたいな紙ってない?」、こんなご相談がお客様から寄せられます。
それにお応えするのが、紙屋の仕事。いろんな質問に答えるため、いろんな「秘密道具」を使って「紙調べ」をするのです。

 

■「紙調べ」

たとえばこんな質問がお客様から……
「この紙ってなんていう紙?」
そう言われてお客様から手渡される銘柄不明の紙片!
いただいた紙を頼りに、どのメーカーのどの紙か?を推理していきます。(この「紙調べ」をして、やっとお見積り依頼やご注文をいただけるのです!)
どの紙かを推理するにあたって、どんな要素を調べていくかというと、
 ①紙の厚さは?
 ②紙の色は?(白い紙の場合、紙の白さは?)
 ③紙の模様は?地合いは?
 ④紙の加工(塗工)は?
などなど、いろんなポイントがあります。

 

■紙の厚み

今回は、”紙の厚みを知る”秘密道具をご紹介します。
皆さん、生活の中で、紙の厚さって、意識したことありますか?
私も紙屋に入るまでは、「厚いなー」「薄いなー」「すごく厚いなー」くらいの意識しかありませんでした。でも、いざ紙屋に入ってみると、「これは90kg」「これは135kg」なんて言葉があちころちで飛び交っているのに直面します。(紙の厚みの単位について、詳しく知りたい方はまたほかの機会に!)
長く紙屋をやっているベテランさんは、紙を見て、触って、大体わかってしまうようです。ナント、その昔の大ベテランの営業さんでは、相手先さんが電話口で「紙をはじいた音」を聞いただけで紙の厚みがわかってしまったとか! 紙の厚さを”聞き分ける”なんて、まるで職人芸ですね。
まぁ、そんな神業を持つ紙屋さんはともかくとして、基本は、紙厚(かみあつ)を測るときは「ゲージ」という秘密道具を使って測ります。そして、実際の「見本帳」の紙厚と比べて特定していきます。
「ゲージ」は、見た目は手のひらサイズの昔ながらのはかりのようなもの。機能としては、「ノギス」をご存知の方は、その紙版といったところでしょうか。
レバーを動かすと、カシャカシャと音がし、杵つきのようなところで紙を挟めるようになっています。

 

■ゲージの使い方

さて、「使い方」の説明をいたします。普段なかなか使う機会がないとは思いますが、”マニアネタ”としてお読みいただけたら幸いです。

1.文字盤の設定
外側の文字盤は、左右に回せるようになっています。この文字盤は、自分用に合わせておきます。
紙厚を測るときは、レバーを親指で下に引き、離すと戻りますが、若干の遊び(ごくわすかな戻りの浅さ)が出るので、親指で軽く押すようにします。紙厚を測る最後の「親指で押す」時に長針の目盛りが「0」になるように文字盤を回しておきます。こうすれば、遊びをなくして正確に紙厚を測ることができます。もちろん、その”加減”が大事になりますが……。親指で押し戻すとき、あまりに力を入れすぎてしまったり、毎回力の入れ方が違うと、ゲージが壊れたり、紙をつぶしてしまったり、正確に測れなくなってしまう可能性があるので気をつけましょう。

 

 

2.紙厚を測る
<1>文字盤の設定ができたら、いよいよ紙を測りましょう。
▶1枚の紙を水平に挟み、紙厚を測ります。
紙そのものの厚みを知りたい場合は、加工(ラミネート・PP加工や印刷、合紙など)のないところで、しわなどのない場所を挟みましょう。私自身、「こういう紙なのかな?」と思っても、実は2枚の紙を貼り合わせた「合紙(ごうし)」だったり、逆に「合紙かな?」と思ったら表裏で色の違う1枚の紙だったりしたことがありました! ぜひしっかり見て、紙の素顔の部分を見つけてみてください。
また、紙は力を入れずに持ち、力を加えず自然な状態で測りましょう。
▶測るときは、数か所場所を変えて測り、平均をとりましょう。
紙の繊維は、もとは「木」。自然素材でできていますので、均一に見える1枚の紙の中でも、微妙に厚さが違うことがあります。1か所だけでなく、3か所以上は測ってみましょう。
また、工業標準に基づいて測定する場合は、厳格にJIS(日本工業規格)で定められており、気温・湿度の調整や、20以上の測定値から割り出すなど、細かい条件があります。そちらも気になる方は「JIS P8118 紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法」を見てみてください。日本工業標準調査会のサイトでJIS規格番号「P8118」を入力すると資料が見られます。 


3.目盛りの読み方
【長針】外側の目盛りは「1目盛り=0.01mm」を表します。なので「10」のところを長針が指していたら「0.10mm」です。長針が1周回ると、「1mm」。このとき、文字盤の左下の短針は反時計回りに動き、「1」の目盛りを指します。
【短針】長針が1周すると、1目盛り動きます。反時計回りで、1目盛りは1mmです。

このゲージ、手になじんでくるとカシャカシャという動きがクセになり、いろんな紙を測ってみたくなります。
気になってきた方は、こちらへ⇒<(株)尾崎制作所さんのサイトへ

(ちなみに、某大手ネット通販でも買えます)

紙厚だけでなく、紙を調べるにはまだまだたくさん要素があります。また別の機会に「紙屋さんの秘密道具たち」を紹介していけたらと思います!

紙屋としては、まだまだひよっこの私ですので、これからも勉強していくことはたくさんありそうです。皆さんも、「紙っておもしろいな」と感じたら、紙のこと、じっくり見てみてはいかがでしょうか? 「こんな紙がほしいな」というときは、ぜひシオザワへご相談ください!