『騎士団長殺し』の用紙(2017年上半期書籍に使用された紙)

紙の販売に長く携わっていると、自分が取り扱っている商品が世の中でどんな使われ方をしているか気になるものです。名刺、パンフレット、中吊り広告など、目についたものは触って、「なるほど、こんな用紙を使っているのか」とか「この用紙をこんな使い方をするのか…」などと思ったりしながら、銘柄や品種の特定を勝手にしてしまう……。まぁ、一種の職業病のみたいなものですね。

 

そんな私が今回ご紹介したいのは『書籍用紙』。
書籍には様々な用紙が使用されているのです。特にハードカバーの書籍となると、カバー、表紙、帯、見返し、扉には特徴のある用紙が使用されていることが多く、本の内容に合わせたり、新商品や意外な商品を使用したり、と大変興味深いものです。
           
もちろん特徴のある印刷加工で表現する場合もありますが、紙選びも装丁家(ブックデザイナー)の腕の見せどころです。

と言うわけで今回は、2017年上半期書籍ランキング上位の本に使用された特殊用紙について、気になったものをご紹介いたします。

 

■村上春樹著『騎士団長殺し:第1部 顕れるイデア編』、『騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編』

個人的には、上半期最も驚かせてくれた書籍で、村上春樹さんの最新作。いったいどんな用紙を使用しているのか楽しみにしていました。(内容じゃなくてご免なさい!ハルキさん)
本を開いた瞬間、「シブイ…」と思わずつぶやいてしまった2冊です。   

見返しと扉に使用されたのが「ジャンフェルト」
色は扉に<絹>、
「第1部 顕れるイデア編」の見返しに<濃松葉>、
「第2部 遷ろうメタファー編」には<ぶどう>が使用されています。

1997年に発売されたジャンフェルト。紙のサンプル帳でもしばしば目にしていた私にとっては、さほど珍しい用紙ではありませんでしたが、深みの強い色味を使用しているのに加え、どっしりと構えたエンボス感が落ち着いた大人の演出をしていると思いました。

 

■佐藤愛子著『九十歳。何がめでたい』
          
表紙は「OKミューズコットン/りんどう」
見返しに「モフル/シトロン」
扉に「ポルカレイド/そば」が使用されています。

優しいエンボスと柔らかなレモン色の見返しがとても印象的でした。
最近、ヨーロッパの用紙に触れる機会があり、日本の用紙に比べてボサっとしていて、白い紙と言いながらも1枚のどこかしらに黒いチリが混じっている。いい意味で人間的なラフな雰囲気のある印象を受けました。
そんな雰囲気にレイド模様を加えたのが「ポルカレイド」。
思えば表紙に使用された1959年発売の「OKミューズコット」ンもレイド模様。
2012年発売の「ポルカレイド」と合わせ、新旧レイド模様の用紙を共演させている一冊としてご紹介させて頂きました。(これぞ、マニアな視点ですね。笑)

本の内容だけでなく、装丁にもご興味をお持ち頂けましたでしょうか。
今後も身の回りで使用されている用紙について注目し、また皆様にご紹介していきたいと思っています。
それではまた!